クラウドサービス利用に当たっての利用規約の確認ポイント

リスクマネジメント, 出張!シナプス法務室

株式会社シナプスイノベーション法務室です。
今回は、クラウドサービスの利用に当たり、契約条件となる「クラウドサービス利用規約」で重点的に確認すべきポイントを、簡単に見ていければと思います。

クラウドサービス利用規約の確認で重要なポイント

クラウドサービス利用規約でユーザの立場から確認すべき重要事項について、手元の法律書で非常に上手にまとめたものがございました1ので、以下の一覧形式にてご紹介させていただきます。


クラウドサービス利用規約に関する重要事項・留意点

確認すべき重要なポイント

確認事項

契約内容の一方的変更権

・ベンダによる一方的な解約権が定められていな
 いか?※後述の定型約款変更規制も参照

セキュリティ

・セキュリティポリシーだけでなく、契約上もセ
 キュリティ維持義務が規定されているか?

損害賠償

・免責規定・責任制限規定の有無と内容

サービスの停止・廃止

・ベンダによる一方的なサービス停止・廃止が定
 められているか?

・サービス停止・廃止までに係る期間

契約終了時のデータの返還、消去、廃棄

・データ返還時のデータ形式は?

・データ返還のためにかかる期間

バックアップ取得の責任

・バックアップ保存の責任がユーザに課されてい
 ないか?

裁判管轄、準拠法

・裁判管轄はどこか(国内/国外)?

・準拠法は(日本/外国)?

サービスの一時的中断事由

・一時中断事由の有無とその内容

最低利用期間

・最低利用期間の有無とその内容

その他

・システムのバージョンアップに関する事項

・アプリケーションソフトウェアの仕様変更等に
 関する事項

西本強「ユーザを成功に導くシステム開発契約〔第2版〕」[2016]P40-48を元に筆者作成

ユーザにとって(一見)不利な規定に対しての対応 - トレードオフの意識

上記の確認事項・ポイントについて、実際の利用規約では、民法などの法律とのズレを見ていったときに、ユーザにとって必ずしも有利でないものも多く含まれています。ただ、画一的・標準的な優れたサービスを安価に提供できるようにする、というクラウドサービスのビジネスモデルからすると、このような規定でクラウドベンダの法的なリスクを低減する必要があるのも事実です。ユーザの観点から見た場合、一種のクラウドサービスの利便性と法的な請求権との「トレードオフ」が生じざるを得ないところになります。

上記の「トレードオフ」が生じる例としては、
③ 損害賠償についての免責規定や責任制限規定
があげられます。
民法の債務不履行責任・不法行為責任の原則ですと、各責任の要件が認められる限りにおいて、相当因果関係のある損害全額の賠償を求めることができます。
ただ、これをクラウドサービスの場合に適用すると、賠償額を考慮した提供単価への上積み等を検討せざるを得なくなるなど、「画一的・標準的な優れたサービスを安価に提供する」というクラウドサービス事態のビジネスモデル自体が立ち行かなくなってしまうという側面がございます。
その意味でいうと、「法的な責任事由の範囲」と「安価なサービス」との間にはどうしても「トレードオフ」が生じてしまうことが多くなってまいります。

クラウドサービスの利用検討に当たっては、このような「トレードオフ」の存在を認識したうえ、クラウドサービス利用規約上「トレードオフ」された事項については、ユーザ側としてのリスク低減策(例えば、万が一クラウドサービスが一時停止した場合のBCP[Business Continuity Plan /事業継続計画]の検討等)もご検討いただければ、と考えております。

民法が優先し「トレードオフ」が生じない場合-定型約款の変更規制

もっとも、上記のようなトレードオフが必ずしも生じていないと評価しうるケースもあります。そのようなことが起こりうる事項の例としては、
① 契約内容の一方的変更権
があげられます。

クラウドサービスは、不特定多数の者を相手として行う取引となります。そうすると、その利用規約は、その内容の全部又は一部が画一的であることが契約当事者双方にとって合理的な定型取引として、「定型約款」と見なされ、2019年の民法改正で導入された定型約款規制2が適用される可能性が高い、と考えられます3
この定型約款規制の一環として、定型約款の準備者(クラウドサービスの場合、クラウドベンダ)が当該約款の変更を行おうとするときには、以下のような要件4に従う必要があります。

定型約款の変更規制の内容

定型約款準備者は、下記の要件を満たすときに限り、相手方との個別合意なく、定型約款を変更することによって契約内容を変更できる。

<実体要件>

約款変更が、次のア・イのいずれかに該当するとき

相手方の一般の利益に適合するとき。

契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無・内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

<手続要件>

効力発生時期を定め、約款変更する旨・変更後の約款内容・当該発生時期を、インターネットの利用等の適切な方法で周知しなければならない。

*上記イの規定による約款変更をするときは、効力発生時期の到来までに上記周知をしなければ約款
 変更の効力が生じない

大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編「実務家のための逐条解説新債権法」[2021]P472より引用(網掛け・見出し強調は筆者)


私の知りうる限りでは、クラウドサービスの利用規約上の契約内容の一方的変更条項についても、上記の定型約款の変更規制の要件に準じた内容となっているケースは多いもの、と認識しています。

問題は、上記のような定型約款の変更規制より緩やかな変更要件について個別の利用約款に定められている場合に、それによる約款変更がどのように取り扱われるかです。
この点に関しては、立法担当者解説では「[引用者中:定型約款の変更を定めた改正民法]第548条の4は、相手方(顧客)を保護することを目的とするものであるため、定型約款中に所定のルールと異なる取扱いをする旨の条項が置かれていたとしても、その効力がそのまま認められることはない」とされています5
管見の限りではこれに賛同する見解も多い6 模様です。このような議論状況を踏まえますと、民法の約款変更規制より変更の要件を緩めた条項やそれによる約款変更の効力が否定される可能性は相当程度高いでしょう。

ユーザの対応としては、あえて当該約款の定めをそのままにしておく、というのも一案ではありますが、法律関係の明確化の観点から、クラウドベンダに対し
・上記民法の定型約款変更規制に準じた変更規定への修正を依頼する

・約款とは別途覚書を締結する
といった対応も選択肢になりえようか、と考えております。

準拠法にも要注意

ただし、上記の定型約款変更規制の適用があるのは、準拠法が日本法であることが前提です。

上記一覧の
⑦ 裁判管轄、準拠法 において、
準拠法が日本法ではなく外国法とクラウドサービス利用規約上で定められていた場合、当事者が契約という法律行為をした当時に選択した地の法律が適用されることとなります7

準拠法が日本法でなく、外国法の定めとなっていた場合、上記① 契約の一方的変更権についても民法の定型約款変更規制ではなく、当該外国法に準拠した処理がなされる点には注意が必要です。

おわりに

以上、クラウドサービスの利用にあたり、「契約事」として検討することとなるクラウドサービス利用規約の重要確認ポイントを紹介の上、そのうちいくつかのポイントにつき若干の解説を加えさせていただきました。

ユーザにおかれましては、クラウドサービス(弊社で提供させていただいているものとしては、生産管理支援サービス UMSaaS Cloud、等)の利用の検討にあたり、本稿が検討の一助になりますと幸いです。

▼注釈

  1. 西本強「ユーザを成功に導くシステム開発契約〔第2版〕」[2016]P38-49参照。本書はシステム開発契約につきユーザの観点を中心に検討を加えた良書です。近時の法改正等を踏まえた改訂版の刊行が待たれます。
  2. 民法第548条の2〜第548条の4。
  3. 筒井武夫=村松秀樹編著「一問一答 民法(債権法)改正」[2018]P246では、定型約款に該当すると考えられるものの例として、「市販のコンピュータソフトウェアのライセンス規約」が上げられています。こちらとの類比で考えると、最終的には個別判断とはなりますが、クラウドサービス利用規約も定型約款に該当することが多くなってくるものと思われます。
  4. 民法第548条の2〜第548条の4。
  5. 村松秀樹=松尾博憲「定型約款の実務Q&A」[2018]P141参照。
  6. 日本弁護士連合会編「実務解説改正債権法〔第2版〕」[2020]P398〜399、大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編「実務家のための逐条解説新債権法」[2021]P474を参照。
  7. 法の適用に関する通則法第7条。なお、不法行為の準拠法につき、同法第17条で加害行為の結果が生じた地の法とされている点についても留意が必要です。
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