IoT導入の際に考慮すべきことは、人の動き

IT・IoT, 製造業

シナプスイノベーション IoT事業部のマルオです。

トヨタ自動車が街づくりに乗り出す、という話が昨年発表され、今年の年初には本格的にプロジェクトがスタートしました。テレビでもCMが流れています。
私もほんの少しだけ自動車メーカの仕事に関係したことがあるのですが、トヨタ自動車の取組みは、これまでの事業とは全く違った、とんでもない取組みではなく、これまでの事業の営みの延長線上にあり、必要に駆られての取組みのように捉えています。

「人がいなければ」自動運転はできる

もう10年ほど前に遡りますが、経済産業省が中心となって、スマートグリッド構想の実証実験を日本各地で行っていたことを、みなさんはご存じでしょうか?

ここでの「グリッド」はエネルギー網を指し、スマートグリッド構想は、より効率的なエネルギーの供給と循環を目指します。
横浜市、豊田市、けいはんな地区、北九州市などで、各種のエネルギーを管理するシステム、例えば家屋内のエネルギーを管理するHEMS(Home Energy Management System)、ビル・エネルギーを管理するBEMS(Building and Energy Management System)、地域全体のエネルギーを管理するCEMS(Cluster Energy Management System)を導入し、未来の街づくりの実証実験を行っていました。

この実証実験の狙いには、エネルギーの地産地消というテーマが盛り込まれています。その構想を細かいところまで見ていくと、自動車が、昼間に走り回って発電し、夜、家に戻ると電池となって家庭の電源を担う、という実験も行われていたことがわかります。これを実現するには、自動車は電気で走ることが前提となります。この発想をベースに、自動車業界の都合を最大限にする形で発展させた先に、自動運転があると私は感じています。

自動運転を実現するためには、自動で駆動できて、方向転換ができて、停止できる、という自動車の「動き」そのものも大切です。しかしそれだけではなく、自動で道の状況や障害物の有無を捉える=センシング技術がしっかりと確立されていなければ、「動き」を制御することはできません。手足が動くからといって、目隠しをして街を歩くことはできないということです。

報道などを見ていると、これらの技術という点だけでいえば、今の自動運転は、人さえ道にいなければ、実用化できるところまで高められているように思われます。

自動運転技術を実現し、市場で一般化させるためには、街中で実用したときの安全の確保が何よりも求められます。
この安全には、車体自体の安全、搭乗者の安全、そして歩行者の安全があると思います。これらのうち、自動車メーカが自分たちで技術を高めて確保できるのは、車体自体の安全と搭乗者の安全です。歩行者の安全は、道路事情が影響しますので、自動車メーカだけでクリアすることは極めて困難です。道路事情=インフラが整わなければ自動運転が普及させられないという問題にぶつかっているのが現状だと私は捉えています。

自動運転技術にとって目の上のたんこぶは、街を歩く人です。つまり、人がいなければ、自動運転はすでに確立されているものと捉えることができます。

トヨタ自動車が街づくりに乗り出すのは、前述の「街を歩く人」と自動車を分け隔てられる環境を準備するために必要なことだと私は感じています。街を一緒に作ってしまうことで、自動運転技術が確立されていることが立証でき、かつてHEMS、CEMS、BEMSで取組んでいたエネルギー対策にも1つの答えを出すことができます。これは、大企業としての使命を果たす上でとても大切で、企業としても、国としても、人々としても歓迎すべき取組みだと思います。

工場のIoTを妨げる「人」

「人がいなければ」という意味では、製造業の現場も同じことが言えるのかもしれません。前述の「街を歩く人」を「構内で作業する人」に読み替えて、製造業のIoTを考えると、設備と人が協働することが、IoTの進展を妨げている様子が見えてきます。

製造業の製品は、混合、分割・切断、穴あけ、研磨、洗浄、組立などなど、様々な作業を組み合わせて製造します。そのために、作業毎にそれに特化した装置が設置されていて、この装置に対して人が材料を投入したり、できたものを取出したり、あるいは取出したものを次の装置のところへ搬送したりしていることが多々あると思います。コンベアや無人搬送車などで装置から装置へ自動搬送するとしても、その流れの途中で人が何かしらの確認をしているなど、人がまったく介在しない現場は少ないでしょう。

また、混合、分割・切断、穴あけ、研磨、洗浄、組立などなど、それぞれの作業自体はFA化されているものの、あくまで、混ぜたり、切ったり、削ったりする行為を自動化しているだけで、どのように、どれだけ、といった事柄は、設備毎にパネルから画面入力したり、ダイヤルやスイッチ類で設備の設定を変えたりしているのが現状だと思います。
設備が動く前、動いている途中、動き終わった時、それぞれの場面で人が面倒を見ているのです。簡単に言えば、製造現場の装置は、家庭内の電子レンジや洗濯機のようなものです。

この状況の製造現場にIoTを入れて生産性を向上しようと考えてみます。

まず、装置それぞれが、動作が終わった、動作に異常があるといったことを報知してくれるようにできれば、始終前に人がいなくてもよくなりますから、若干の効率化が見込めます。
ただ、なぜ、装置の前にじっと立っていたくないかといえば、休憩ではなく他の作業をするために、装置の前から離れたいからですよね。その別の作業をしている時に、装置からの報知で割込み作業が入ったら、と考えると、本当にそれは効率的なのか、少し悩んでしまいますよね。

ただ単に装置に動作が終わった、動作に異常があるといったことを報知させるだけでなく、IoTで装置の生産効率を測るというのも考えられます。これまで見えていなかった様々なことが見えてくるのではないかと期待します。

けれど実際のところ、現代の装置は、ワークを投入して、設定して、動作を指示すると、ほぼ一定の時間で作業を終わらせます。そのため、装置の動作時間をIoTという名の下に計測しても、大して面白いデータが取れるわけではないようです。結局は、ワークを装置に投入・取出しする人の動き、装置にどのような設定をするのかという人の判断、感性が生産効率を決めていることに、世の中も気付き始めていると思います。

こう考えていくと、つまりは人の動きが生産性を左右しているという結論になりそうです。設備と人が協働していて、そこにIoTを入れて生産性を向上しようと考えても、どうも人の動きがネックになる。これは前述の「人がいなければ」ということです。

でも、製品を製造するための混合、分割・切断、穴あけ、研磨、洗浄、組立などなどが自動化されているのであれば、後は装置間を自動で搬送さえできればいいように見えますよね。それこそこれだけ自動運転技術が高まり、ロボットが一般化しているのであれば、それらをIoTというよくわからない複合技術で繋ぎ合わせれば、製造現場に人がいなくたって、勝手に工場が動いてモノができそうに思えます。
ところが、それがそうはいかない事情が色々とあるんですよね……。

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この記事を書いた人

IoT事業部 マルオ

シナプスイノベーションIoT事業部のマルオです。
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