自動化以前に-IoT導入で成果を出すためには-

製造業界にIoTという言葉が浸透してもうだいぶん経ちます。設備から情報を収集して、ネットワークに接続して、データベースに情報を蓄積して、それを分析する、そういった案件がここ10年ほどで増え、色々なお客様と色々なお話をさせていただいてきました。
その中でお伺いしてきたご要望の大半は、設備の稼働率を見えるようにしたいなぁ、設備が止まったことをすぐさま知れる仕組みを持ちたいなぁ、設備が止まった時の映像が残っていたらいいなぁ、このあたりだったと記憶しています。あとは、作業員が何をやっているのか、どこにいるのか見えるようにしたいとか、製造現場の温度・湿度などの環境情報と不良の相関を見たいとかいったものでした。

さて。2010年代の前半は、前述のような要望をもって、IoT案件は予算が取れていたのです。ところが、2010年代後半になると、だんだんとこれでは予算を取ってもらえないようになってきたと感じています。

では、IoTに予算が付かなくなったのは、一通りIoTが行き渡ったからか。それとも、景気が悪いので予算を絞ったのか。理由としては、どちらもノーだと思います。
予算が付かなくなった原因は、それがなぜ必要なのか、どれだけメリットがあるのか、そういったことを訴えきれていないことにあるのでは、というのが私の考えです。

IoTは業績アップの魔法なのか?

前述のご要望の多くは、製造系の方々、現場で働いておられる方々が挙げられるものです。製造系の方々は、自分たちのテリトリである製造現場に設置されている各種生産設備の故障が事前に予知でき、計画停止させることができ、より稼働率を高く動かすことができれば、より出来高が上がるとお考えになる訳です。もちろん、これは大きな間違いではないと思います。
ただ、ここには経営的視点=生産管理の視点がやや欠けているということに、予算が付かなくなっている要因があるのではないでしょうか。

メイドインジャパン=安全、長持ち、というのが日本製品に対する世界の見方であり、この認識は間違っていないと私は思っています。また、日本人は勤勉でまじめに働くというのも、世界の見方であって、また、間違っていないと思っています。
ということは、日本の製造業って、そんなにしょっちゅう生産が止まっているものでしょうか? 日本の生産設備って、そんなに故障しやすいのでしょうか? 日本人って、生産に影響するほど勤務中にサボっているのでしょうか?
つまり、IoTを導入して設備や作業員の状況を見えるようにしても、それほど効果が上がらないのではないか。そういうことが、2010年代前半までの経験で分かってきた、だからIoTに予算が取られないようになったのではないかと考えています。

製造系の方々にとっては、設備が突然止まったら、慌てて生産を止めて、設備を見て、原因を突き止めて、場合によってはメーカに問い合わせたり部品を取り寄せたりと大変な思いをする、設備が止まったら大事なんだ、というのは実際のところでしょう。
しかし、会社全体からみると、これが月に1回、週に1回あったらそりゃ大変だと思いますが、実はそこまで頻繁には、設備は止まっていないのではないでしょうか。
そうなると、予算を採択する側=経営陣は、「そこが問題」と思っていないのかもしれません。設備が急に止まっても、現場の担当者の方々や保全の方々がきちんと対応すれば、会社は傾かない、設備の停止を取り除くことでは会社の業績は右肩上がりにならない、という判断をなさっているのだと思います。
かつてIoTがやってきたことは、今では全体最適の観点からあまり費用対効果に優れてないと判断され、他のことに予算が回されている、そう私は想像しています。

IoT以前に見るべき「人」の動き

現場をよく知らない人たちの頭の中にある、工場の様子を思い浮かべてみましょう。
人がきちんと材料をセットし、設備の操作をすれば、ほぼほぼ問題なく設備が動いて生産ができるはず。稼働時間は想定したタクト通りであって、計画している生産がきちんと賄えているはず。設備は決まった時間稼働しているだけ、それに合わせて人が動く、IoTでデータを収集しても単調なデータが繰り返し記録されているだけ。
「いやいや、そうじゃないんだよ」というご意見が聞こえてきそうです。私も、実際の工場が常に何の問題なく動作していて、同じデータが記録されるなんて考えていません。ただ、現場を知らない人たちからするとそう考えるのも無理はない、だから、大金を出してIoTを導入して、そんな意味のないデータを収集してどうするんだ? というのが、IoTの予算が限られる公の理由になりがちなのではというお話です。

こういった一見正論っぽい、IoTを却下する理由に対してどうアプローチするべきか。私はあえて、設備は問題なく動作する、設備はいつも同じ生産性をたたき出している、ということを前提に現場の改善を考えた方が、建設的に議論が進むように思います。

設備は常に問題なく動作し、問題なく動作している限り同じ生産性を発揮できる。それならこの話は終わりではないのか、というとそんなことはありません。

設備が動作しだすまでに掛かる時間、つまり、材料をセットして、設備を操作して、設備が稼働するまでに掛かる時間があります。これにはどれだけ、どんなものがあるのか。設備を止めて次に動き出すために掛かる時間というのもあります。出来上がったものを設備から取り出すためにどれだけ時間が掛かっているのか、また、異なる品目を製造するために段取り替え時間がどれだけ掛かっているのか。
このような、設備自体は問題なく動作していたとしても発生するバラツキの要因を、人にフォーカスして追求してみてはどうでしょうか。

設備を遊ばせないために効率的に材料が供給できているのか、設備を有効利用し、生産を最大にする生産計画になっているのか、などなどはすべて生産性に直結する課題です。しかしそれ以前に、そもそも現場に対して効率的な生産が指示できているのかという話です。

例えば、1日8時間勤務の人がいて、その人の受け持ちに、1度動作させると3時間半動き続ける設備があるとします。
ということは、この人は1日の勤務のうちに設備を2回動作させられるということになりますが、なぜか、1日に1度しか動かしていないとしましょう。なぜそうなるのか。

実は、設備を動作させる前に、材料を取りに行って、戻ってきて、セットして、設備を操作して、スタートする、ということが必要となっていて、それに30分掛かっているんです。更に、設備が動作し終わって、製品を取出し、次の工程や倉庫に持って行って、戻ってくるのにもまた30分掛かる。その上、設備が1回動作したら、清掃作業が必要だったり、消耗品の交換が必要だったりして、実際にはもっと時間を喰う。ということになると、実際にこの設備を動作させるのにかかる時間は、設備自体が動作する時間:3時間半+準備:30分+後始末:30分+清掃・消耗品交換:α = 4時間半+αとなりますので、もう1回設備を動かすためには、4時間半+αの時間が必要です。この時点で8時間では足りません。
さらに、現場の方は設備を動作させるための作業だけをやっているわけではなくて、日報を書いたり、1日の終わりには整理・整頓・清掃もしたりします。全体の労働時間としてはさらにプラスαの時間が必要になります。
ということで、この現場では、設備を2回動かす=残業が発生する、ということがわかりました。残業は、従業員にとっても、経営者にとっても、減ってほしい、なければない方がいいものですので、注文が立て込んでいる繁忙期でなければ、1日1回、3時間半だけ設備を動作させることになると思われます。

このような現場に、従来よくあった製造系の方々の要望をベースにしてIoTの仕組みを作って、設備で何が起こっているのかを見ても、設備の稼働率は普通の50%弱の値を示し続けるだけです。動作している時間もほぼ決まっているので、稼働時間もほぼ同じデータが並ぶことになります。
それに、1日に1回3時間半動作すればよいのであれば、わざわざIoTで何か起こった時に報知する仕組みを作り、慌てて見に行ってリカバリしなくても、残りの数時間で対応すれば、その日の目標は十分に達成できることが多いのではないでしょうか。
設備の稼働が見たい、人の稼働が見たいといってIoTを入れた。でも結局、データを収集したのはいいけれど、いったいこのデータをどう分析するのか、と悩むことになる。挙句の果てにどうでもいい細かいことに着目して、「分析した」という仕事の実績を作ることになってしまったりしてはいないでしょうか。ただ単にデータが蓄積されて見えるようになってはいるが、利活用されていない、そういう悲しい状況になっているのではないでしょうか。

2010年代後半に入るにつれて、こういう現実があることにみんなが気付き始めて、データを収集しても何を分析するの? とか、データ収集しても分析なんかできない、という結論に至ってしまい、IoTに予算をかけても仕方ないよねということになってしまった気がします。
でもこれでは相変わらず、現場の方々の、思ったほど生産性が上がらない、上げなければ、という課題はそのままです。ではどうしたらいいのでしょうか。

とりあえずIoTの仕組みを導入して見える化、データ化ではなくて、それよりも先にできることがあるはずです。
まずやるべきは、前述の準備にどれだけ、後始末にどれだけかかっているのかを数字で分かるようにするとか、日報を書かなくてもいいようにするとか、材料を素早くピッキングできるようにするとかいった、機械の動作の外で人が動いている時間をしっかりと捉え、改善することなのではないでしょうか。

本当に成果を出したいのなら、まずは、製造現場の「人」にまつわる実績を正確に収集して、生産管理のデータに直結させる。そこからさらにIoTでの収集データを活用する。こんな順序で物事を考えることを当社ではお勧めしています。

生産管理システムをご検討中のあなたへ

製造業向けクラウドサービス
「UM SaaS Cloud」

「UM SaaS Cloud」は製造業の業務全体をカバーするクラウドソリューションです。
受注生産の計画や負荷、工数を把握することができ、海外工場管理やサプライチェーンの強化に最適です。

製造業向け製品群「UM SaaS Cloud」
製品資料ダウンロード