災害発生時の労働時間ってどうなるの?

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夏の鮮やかな色合いあふれる風景や、心置きない友人と過ごしたひとときを胸に、オフィス街に戻ってきたまふゆさん。翌朝の大阪で待っていたのは「台風20号近畿圏接近について」というタイトルの社内メールでした。

 

大阪オフィス勤務者各位

明日の夕方から明後日にかけて台風20号が近畿圏に上陸もしくは
接近する可能性が高い模様です。

交通機関への影響が予想されますので、
明日は終日休暇取得もしくは午後半休の取得を推奨します。

休めない人は在宅勤務や休日の振替出勤などを上長と調整してください。

 

休み明けだからやりたい仕事がたくさんあるんだけれど、電車が止まって帰れなくなるのは困るなぁ。午後半休にしようかな。と考えたまふゆさん。今年は地震に大雨と自然災害による休暇がすでに何度も発生しています。

地震は家を出る前だったから一旦自宅待機、その後休暇申請を出したんだったよね。あの日は、出勤途中で乗っていた電車が止まってしまった人が一番大変そうだった。私は有休を取ったけど、途中まで出勤の人たちはどうしたんだろう?

そんなことをぐるぐる考えながら、まずは明日の予定を報告しようと上長の箸谷さんが座っている席まで歩いていきました。

 

まふゆ「箸谷さん、私やりたい仕事があるので、明日午前中だけ出勤したいです。

午後半休で申請出していいですか?」

 

箸谷「明日の朝はまだ雨の予報も出ていないですし、大丈夫でしょう。

申請だけ今日中に出しておいてくださいね」

 

ま「はい、すぐ申請します。ところで、私の最寄り駅の沿線、前回の大雨で電車が止まったんです。

明日よりも明後日の朝のほうが心配なんですけれど、止まってしまった場合ってやっぱり有休消化ですか?

台風がどんどん来て、有休が足りなくなったらどうすればいいんでしょう」

 

箸「うーん、無給での休みになるのかなぁ。

ちょっと浅尾さんに確認してみましょう。浅尾さー……」

 

浅「呼んでくださるのを待っていました!

さっき、ほかの方から同じ質問を受けていたところです。

原則として、ノーワーク・ノーペイで考えることになります」

 

ま「のーわーく、のーぺい……前にも聞いたことがあります。仕事なし、支払いなし?」

 

浅「働かなかった日や時間に対しては賃金の支払いもなしという意味で、民法に根拠を持つ考え方です。

有休を使わずに休むことになった場合は、働かなかった1日分、お給料が減額されることになります。

ただ、休業を会社命令として出したときは、状況によって給与が一部支払われるケースも出てくるんです」

 

ま「本人に選択の余地はなく、会社が強制的に決めた場合、ということですね。

一部ってどういうことですか?」

 

浅「労働基準法第26条は、使用者(会社)の責に帰すべき事由により休業した場合には、使用者は平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない、と定めています」

 

ま「全額じゃなくて6割なんですね。

でも使用者の責に帰すべき事由、かぁ。判断が難しそう。

だって今回は台風だし、前の休みは地震とか大雨だったし、会社に責任があるかって言われると違う気がします」

 

浅「その解釈で合っていますよ。地震や台風などのいわゆる天災地変は、会社がどんなに注意をしていても発生を避けられるものではありませんので、不可抗力とされています。

休業が不可抗力に起因する場合は、まふゆさんが考えたように会社の責に帰すべき事由とはなりません。

ですので、台風のせいで公共交通機関が止まった場合は、会社命令でその日が休みになったとしても休業手当は払われず、その日は無給になる、というのが原則的な考え方です」

 

ま「となるとお給料が減ってしまうので、うちの場合は有給休暇の取得を奨励している、ということですね」

 

浅「その通りです。

一方で、同じように台風が理由でも休業手当が支払われる可能性があるのが、予防的措置として早い時点で会社が休業を決めてしまったケース。

天災の予測はとても難しいので、最近前倒しで閉店を決めるお店も増えていますよね。

天災の可能性が低いにもかかわらず、社員に選択の余地なく休業を決めてしまった場合は不可抗力による休業とは認められず、休業手当の支給が必要となる可能性が出てきます

 

ま「じゃあ、台風がまだまだ遠くにいるのに、12時で有無を言わせずの帰宅命令が出た場合は……」

 

浅「状況にもよるでしょうが、12時以降の時間については休業手当が求められる可能性があります。

ただし、休業手当はほとんどの場合6割の支給にとどまりますので、やはり給与が減額されることに変わりはありません。

また、その日に働いた時間数ですでに6割分の給与が見込まれている場合には、それを超える休業手当は支給されません」

 

ま「……お給料が1円でも減るのはいやなので、電車が止まったら有休を申請することにします」

 

浅「まふゆさん……判断基準が明確ですね。

中には、不可抗力の休業についても給与全額を保障する方針の会社もあります。

ですが不可抗力の事態は1日で終わることもあれば、場合によっては数ヵ月に亘るケースも想定されますので、どこまで給与を保障できるかの線引きは大変難しいところだと思います。

数ヵ月に亘り全社員が不可抗力で出社できない場合、もちろん理想は給与を保障することでしょうが、そうすると社員が戻ってくる頃には会社の体力が持たなくなっている……なんていう最悪の事態も考えられます」

 

ま「数ヵ月間の給与が保障されてもその後の雇用が保障されなくては、やっぱり困ってしまいます。

それにしても、数ヵ月も会社に来られないケースなんて、考えたことなかったです。

お客様も会社も社員も、みんなが困っちゃう。うちの社是の「三方良し」が実現されません」

 

箸「BCP(Business Continuity Plan)の観点からも、そんな状況になっても事業を継続できるよう計画しておく必要がありますね」

 

浅「そういえば箸谷さん、BCPにテレワークは有効な解決策ですよね。

まふゆさん、明後日電車が止まってしまった時のために、テレワークの準備をしておくのはいかがでしょう。

テレワークなら、会社に来られなくても仕事ができる! お客様も会社も社員も、三方みんなハッピーです」

 

箸「行き当たりばったりではなく、事前に予測して準備をしておくことは大事ですね」

 

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その休業は使用者の責に帰すべき事由によるものか否か。まふゆさんのように公共交通機関が止まってしまったという状況だけで判断できるケースもあれば、事業主の休業回避努力も含め総合的に判断されるケースもあり、単純に明文化できるものではなさそうです。

 

例えば工場の機械が故障して稼働できないことを理由とした休業は、事業主が経営者として十分に注意していれば避けられた状況と考えられており、使用者の責に帰すべき事由であり休業手当を支給すべきとされています(使用者が相当な注意を払っていたにもかかわらず不可避であったと客観的に立証できれば、使用者の責を問われないことがあるかもしれません)。

 

機械が動かない理由が停電にある場合は? 電力会社が決めた停電の責任も事業主が負うべきものなのでしょうか。

計画停電に際しあらかじめ休業を決める場合について、厚労省は「計画停電に伴う休業は、使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しない」との見解を示しています(平23・3・15基監発0315第1号)。

ここでは、「事業主は停電の可能性を予知し、工場を稼働させられる程度の自家発電の装置を備え付けておくべきであった」なんていうレベルまで休業回避努力を問われることはないようです。

 

休業回避努力が問われる場合があるからといって、台風が近づく中帰宅判断を下さず、働き続けた社員が台風直下で帰宅して負傷したのでは本末転倒ですし、却って事業主の安全配慮義務が問われることにもなるでしょう。何が優先すべき事項なのかを見極めた判断が求められます。

 

当社では冒頭に紹介したように、在宅勤務や振替出勤、休める場合は有休取得と、社員が柔軟に選択できるようにしており、各自自分の居住地域の状況によって判断するようにしています。過去の事例からの学びを活かして、直近の台風では帰宅困難者が発生しないようにオフィスを15時に閉鎖するなど、一部強制的な動きも取り入れました。

 

テレワークの体制が万全になった未来には、公共交通機関が止まったとしてもテレワークの準備さえ整っていれば仕事を継続できたはずと判断されて、使用者の責に帰すべき事由なんてめったに発生しなくなるかもしれませんね。

 

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浅尾
この記事を書いた人

浅尾 美佳(あさお みか)

食べてしゃべって走る、特定社会保険労務士。
使命は社内平和と世界平和。
ジョージ・クルーニーの嫁に憧れています。

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