DX対応・民法改正で変わる情報システム取引に関する契約①

出張!シナプス法務室, リスクマネジメント

株式会社シナプスイノベーション法務室です。

今回のブログから、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展を受けて、ソフトウェア・システム開発における契約形態も変化しつつある、ということを何回かに分けて解説させていただければ、と思っております。

当社は今、他社製のERPパッケージ等のインテグレーションを行うITベンダーから、J WALD等の製造業様向け自社製品を展開するソフトウェアメーカーへと脱皮しよう、と鋭意取り組みを進めております。

そのような会社の法務担当として、DXや、それに伴う契約実務の変化については日々キャッチアップを続けております。ただ、本稿執筆時点(2020年9月)においては、それらの詳細を分かりやすく解説した書籍や記事は必ずしも多くはない、というように感じています。

そこで、今回からの私の担当記事では、ソフトウェア・システム開発を巡る契約実務の近時の動向を微力ながら紹介させていただきたい、と考えております。皆様の業務に少しでもお役に立ちますと幸いです。

2つのモデル契約がつくられるに至った経緯

ソフトウェア・システム開発の契約実務における近時の動向としては、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が経済産業省と連名で発表した、

「情報システム・モデル取引・契約書」の改正民法対応版(2019年12月24日)と、
「アジャイル開発外部委託モデル契約~情報システム・モデル取引・契約書〈アジャイル開発版〉~」(2020年3月31日)

という、2つのモデル契約が注目されます。

この2つのモデル契約の意義や位置づけを理解するにあたり、まず大本となる2007年経済産業省発表の「情報システム・モデル取引・契約書」(以下、本稿において「モデル契約2007年版」といいます)を簡単に振り返っておきます。

モデル契約2007年版は、当時の時点で既に著しい進展が指摘されていた情報システムを巡る取引につき、ユーザー・ベンダー双方が共同で、取引関係の可視化・明確化、ひいては情報システムの信頼性・安全性向上を図ることを目的につくられました。

折しも、裁判例でもソフトウェア・システム開発に関する紛争が段々と増えはじめてきていた時期でもあり、トラブル回避のためには、契約書の内容や、開発工程における当事者の役割、仕様や手続等を明確にしていくべき、との指摘が(従来にもまして)なされておりました。同モデル契約もそのような文脈の中で整理されたものです。

モデル契約2007年版は、ソフトウェア・システム開発業界の契約実務において参照される一種の『業界標準』として機能していました。それだけ『出来のいい』モデル契約ではあったのですが、業界を取り巻く環境の変化に従い、以下の2つの観点から見直しが必要とされるようになり、検討が進められました。

2017年の民法改正

同モデル契約が前提としていた民法(債権法)が2017年に改正され、ソフトウェア・システム開発で使われることの多い典型契約である請負、準委任の両契約についても無視できないレベルでの改正が入りました。
この民法改正の内容を、モデル契約に反映させる必要が生じました。

DXの進展に向けた環境整備

同モデル契約は、ユーザーとベンダーが対等の立場で、いわゆる『ウォーター フォール型開発』による大規模なシステム開発を行うことを想定してつくられました。しかし、経済産業省に設置された「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」において、今後DXの進展を促していくためには、この想定だけでは足りず、ウォーターフォール型開発とは別方式の『アジャイル開発』に対応したモデル契約も必要ではないか、との認識が示されました。
DXの進展に向けた環境整備の一環として、新たにアジャイル開発用のモデル契約を策定する必要が生じました。
近時IPA/経済産業省から発表された2つのモデル契約は、これらの検討を踏まえた成果となります。

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次回以降の予定

次回以降は、IPA/経産省から発表された両モデル契約につき、それぞれの概要とポイント、留意すべき事項等を解説できれば、と思います。
引き続き、よろしくお願いいたします。

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