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製鉄業の歴史と自動化への道

更新日:2023年12月27日
製鉄業の歴史と自動化への道

2021年夏、コロナ禍の中、2度目の東京オリンピックが開催されました。

よくオリンピックにはお金がかかると言われますが、前回の東京オリンピックも相当な国家予算を投入して実施されたことと想像され、オリンピック以前と以後では、東京の街はだいぶん状況が変わったと書籍などから読み取ることができます。

道路、鉄道、建物、水道、ガス、電気などなど、街のインフラ整備は必要不可欠だったことでしょう。 この街のインフラ整備に欠かせない材料の1つとして鉄があります。道路舗装に埋め込まれる鉄芯、鉄道のレール、建物の鉄骨、水道管、ガスパイプ、電柱の金具など、あらゆるところに鉄は関わってきます。

製鉄の発展と自動化

人類の発展の歴史にとって鉄はとても重要な役割を担ってきました。製鉄は紀元前から行われ、4000年以上の歴史があるとも言われています。「鉄は国家なり」、19世紀にドイツ統一を牽引したビスマルクが演説の中でそういった趣旨のことがらを口にしたそうです。これはつい最近まで生きていた言葉で、筆者も製鉄プラントの自動制御に関わっている時に何度も耳にしたことがあります。
「国家なり」と言わしめるほどの材料ですから、近代においては世界のどこの国も、国家として経済成長を遂げるために、まず、製鉄を強化するフェーズを迎えました。鉄はあらゆる産業の源といっても過言ではないと思います。

欧米は、日本よりも一足早く製鉄を強化し、世界を闊歩しました。
日本も遅ればせながら製鉄の整備に取り組んだものの、国内で石炭は採掘できましたが鉄鉱石の採掘はできず、更に太平洋戦争のために鉄が大量に必要となった際には戦時下のため鉄鉱石の輸入ができず、なかなか思うように進みませんでした。十分に製鉄が強化できたのは、戦後、鉄鉱石の輸入が可能となってようやくのことでした。

当初は人が機械を操作して鉄を生産していたのですが、1970年代になると、新日本製鐵、住友金属、日本鋼管、川崎製鉄、神戸製鋼など当時の大手製鉄会社が、最小の人員と時間で鉄の生産量を最大限にするために、鉄鋼プラントの自動化を進めました。
自動化を進める=コンピュータを使う、ということになります。それまで人が保持していたノウハウは、コンピュータのプログラムとデータとして移植され、ほぼノータッチで製造できるプラントが次々と実現した結果、製鉄は世の中で最も自動化、無人化が進んでいる製造業と呼ばれるまでになりました。

やがて1990年代初頭には、日本の製鉄は量、質とも世界一になりました。それを支えたのは様々なコンピュータシステムです。生産計画をコンピュータに入力すれば、通信にて工程ごとのコンピュータに伝送され、工程ごとの担当者はコンピュータの画面(HMI)で生産内容を確認できます。工程ごとのコンピュータは生産計画を咀嚼し、生産設備を動作させるコントローラに、必要とするタイミングで必要な情報を事細かに伝えます。人が生産計画に合わせて機械を設定し動作を指示していたのが、自動で行われる生産を人は見守るだけとなったのです。

様々な産業となる源の鉄は、自動で大量に作られるようになりました。しかし、大手製鉄会社は素材として鉄を供給しているだけであり、ここから出荷された鉄が、あまたの企業に供給され、目的に合わせて形、色、寸法を加工されてはじめて、身の回りにある工業製品や生活インフラとなる訳です。
ところが、大手製鉄会社と、供給を受けて鉄を加工している会社の間には、自動化の状況に天地ほどの差があります。

製鉄の自動化から鉄加工の自動化へ

鉄を加工する上で重要とされるのは、温度管理です。鉄はご存じのように固いので、加工するにあたって熱を加えることが多々ありますが、一方で鉄は熱を加えて形状を変化させると非常にもろくなりやすく、熱を加えながらももろくならないようにすることは重要な課題です。

大手製鉄会社では、熱を加え、形状を変化させ、焼鈍するプロセスにおいて、コンピュータを利用して、材料や製品の仕様に合わせて、厳格に温度管理を行っています。これをするためには、もちろん、どの材料がどこに、どのような状況にあるのかを認知し、それはどの注文に対応している材料なのかを紐づけて管理する必要があります。

大手製鉄会社の製鉄所は、ある意味で「スマート工場」であり、工程毎に設置されている運転室は「工場コックピット」のようなものです。現代の言葉でいう「DX」がずっと以前から進められていたと言えるのではないかと感じています。

大手製鉄会社が導入してきた全社規模のコンピュータシステムは3階層から構成されています。ERPにあたるホストコンピュータ(レベル3)、MESにあたるプロセスコンピュータ(レベル2)、エッジにあたる設備を制御するコントローラ(レベル1)です。

大手製鉄会社が現代でいう「DX」を進めていた時代には、IBM、NEC、富士通、日立製作所、東芝、三菱電機などの大手電機メーカが独自のコンピュータ、オペレーティングシステムを開発し、独自の通信機器を用いてネットワークで接続する産業用コンピュータシステムを提供していました。これを導入するのにかかる費用は尋常ではありませんでした。

しかし、今や時代は昭和から平成、令和と流れ、コンピュータの性能は格段に進化しました。オペレーティングシステムはWindowsやLinuxといった汎用的なものが主流となり、通信もオープンな規格が増え、知識さえあれば以前より遥かに安価に自動化が進められる時代となっていると感じています。

しかし実際には、大手製鉄会社から鉄をビレット、スラブ、コイルなどの形で供給される加工会社では、今なお人手を介して製造の指示を行い、人が装置に設定値を打ち込み、装置を起動し、動作結果から温度や寸法などを目で見て紙に書き写していることが少なくありません。大手製鉄会社が培ってきたノウハウは、エキスを抽出することで多くの中堅・中小企業に活かせるはずなのですが、多くの人がそこに気付いていないのかもしれません。

高度に生産が自動化され、コンピュータシステムが末端まで息づいている状況は、ノウハウの塊です。大手製鉄会社はその仕組みを論文などで度々発表していますが、明け透けに見せてくれるものではありません。そもそも製造現場自体にも滅多に足を踏み入れさせもらえないので、大手製鉄会社と自動化に関わった企業の社員以外が、大手製鉄会社がどれだけ自動化されていて、コンピュータシステムを駆使しているのかを知ることはできません。

筆者は、たまたま十数年間に渡って、製鉄の自動化システムに関わり、自動化が進められ始めたころのシステムをその時なりに最新の技術へ置き換えていく仕事に従事したことにより、新旧の技術、仕組みを知ることができました。またそれと並行して、鉄が利用される下流の加工や製品組立のお客様ともご一緒させていただくことがあったので、高度に自動化された生産現場と人と装置を併用する生産現場の両方を見てきました。その経験からすると、かつては高価な機器を電機メーカから購入してシステム化してもらわなければ実現できなかった、高度に自動化された生産現場も、現代の技術を駆使すれば比較的安価に作り出すことは夢ではないと思えます。

おわりに

ただ、企業は収益がすべてですから、どれだけの自動化を進めることで、どれだけの投資対効果が得られるのかを把握したうえで、収益を拡大するための手段として自動化を選択することが必要になります。
そのためには、経営的視点で投資対効果を見定める視点も、その見定めたことがらを現場でどう具現化し、実現していくかを考える工学的視点も必要になります。

当社は、様々な人材を抱え、経営的視点も工学的視点も兼ね揃えていると自負しています。
例えば、UM SaaS Cloudは、お客様が自動化や現場カイゼンのための投資対効果を検討するために必要な情報を提供することが可能です。

ご興味を持っていただけましたら、製品紹介ページもご覧ください。

UMマスター
著者:UMマスター

UM SaaS Cloudに長年携わっているベテラン。
製造業における業務の効率化や生産性の向上を実現した経験とIT活用の幅広い知識を有しています。
ブログでは、製造業におけるIT導入の成功のポイントなど、製造業向けのIT導入に関する情報を発信しています。

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